Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

      “夏の終わりに”
 


手短に言えば、
ロンドン五輪とゲリラ豪雨の夏だった。

  「…おいおい。」
  「手短すぎるぞ。」

  確かに。(猛省)

あらためましての言上申し上げますなら、
今年もまた、
人為も天災もいろいろと押し寄せた
相変わらずに落ち着きのなかった日本の夏であり。
政局や国際情勢に関しては
いい年齢してよく判らないので さておいて。(こらー)
のっけから猛暑日で始まった七月以降は、
その途轍もない暑さの副産物、
昔なら“夕立”で済んだ突然の驟雨が
“観測史上に例がない”という、
それこそこれまで聞いたことのない肩書つきで降りまくり。
しかも今年は、
それへと必ずのように付いて回った、
突然 襲い掛かる落雷被害も半端ではなくて。
梅雨の間に蹂躙された九州地方の皆様には、
その後の猛烈な雷雨のゲリラ的な発生とあって、
ひやひやし通しの夏となったことだろう。

 「そうなんだよな。
  去年は、
  豪雨に遭ったら半地下とかが一番危ないから
  何はともあれ地上より上へ上がれって父ちゃんが言ってたけど。
  今年は
  落雷はどうすりゃ落ちないかってのがまだまだ未知数だから、
  とりあえず頑丈な建物に避難して窓から離れろってよ。」

いろんな博士や研究者にも コネの多いお人であるせいだろか。
日頃は結構な反発を示すお父上だというに、
そういう諸注意を下さるのへは、
一応耳を傾ける子悪魔さんなようで。

 「夏の催しも中断させられたのが結構あったもんな。」

五輪の熱狂に持ってかれた感もあったが、
甲子園での高校野球のみならず、
高校総体だってあったし、
小中学生の様々な全国大会の決勝も例年どおりに催されたが、
豪雨よりも落雷を恐れての中断というのが結構あった。
勿論…という言い方をすると語弊ありだが、
熱中症で搬送された人もたんといて、

 「マジで真夏の開催は検討してくれ。」
 「だな。」

子供は何だかんだ言っても元気だし、
そこはさすがに監督担当の大人たちがしっかとケアしてもいたが。
同じように炎天下の応援席は、
それこそ体力がないと死にに行くようなもんだったそうで。
そんな事情を御存知なこのお二人だったのは、

 「大体、何でお前が小学生サッカー大会に運んでたんだ。」
 「しゃあねぇだろ。
  桜庭がCMやってる清涼飲料のスポンサーが、
  今年の大会の協賛に加盟してたんだからよ。」

オリンピックイヤーだし、CMもそっち一色だったから油断してたら、
だからこそ、
現場に来てくれるゲストに困って…って順番らしかったけどと、
毒を吐くのも相変わらずではあったけど。
アイドルでもある桜庭選手が、
夏は本場じゃないアメフトの
ユニフォーム(架空チームのしかもレプリカ)を着て、
別の球技のオープニングセレモニーに顔を出し、
女性集客力の物凄さを発動させて せいぜい盛り上げたのへ、
どういう“一応”なのか付き合いよくも同伴し、
バックスタンドを埋めてらしたうら若き女性らに、

 『ヨウイチくん、かわいーいvv』
 『こっち向いて、あ、あ、笑った、可愛いっ!』

こちら様も せいぜい頑張って、
熱中症で引っ繰り返る間も与えずという
気力の糧となろう“萌え”を振り撒いた日があったのだとか。
過去のこととして語れるほど、
半月以上も前の話じゃああるのだが。
いま、ふたりで寛いでいる葉柱さんチのお庭にも、
そろそろ、陽のあるうちでも涼しい風が、
木陰を渡って吹き来るようにも、
なっちゃあいるのではあるけれど。

 「たださ、それってさ。」

葉柱のお兄さんたちが“合宿に入るぞ”と構えた日と
がっつり重なっていたことが、
今更ながら、妖一くんには済んだこととして流せない
事由となっているようで。
曰く、

 「あれは絶対に、
  父ちゃんが何か根回しとか陰謀を巡らせたに違いない。」

 「絶対ってお前……。」

ほんの先程、ゲリラ雷雨への注意を授かったのを
もっともだと咬みしめていたはずが、
あっと言う間にコレであり。
しまいには、
都電が遅れても父上の陰謀とか
言い出すかもしれないノリだぞ、それ…と。
おいおいおいと窘める葉柱へ、

 「ルイは知らないから…。」
 「何をだ。」

そういや、依然として葉柱のお兄さんは、
いやさ、妖一くんだって、
お父様の稼業の、正確なところは知らないまんまじゃなかったか。
だっていうのに いかにも訝しげなこの口調。
葉柱さんチのシェフ殿謹製、
ライムスカッシュ、炭酸強めVer.のグラスを手に、
むむうと唇とがらせておいでの妖一くんたら、
もしかしたら何か探り当てでもしたものか………と 思いきや。

 「ロンドン五輪観戦で、あんだけ袖にしたんだもの、
  何かしらの報復が、あってしかるべきじゃんか。」

 「…お前ね。」

そして、
こんくらいの行事の日程いじり、
やろうと思やオレんだって出来るぞ、と。
各所の調整をちょこっとずつズラすことで、
開催の日を思うがまま、
なのに あたかも自然とそうなったように指定出来る秘技を、
あの父ちゃんなら容易く発動出来るしなんて、
おっかないことまで言い出す始末。
いくら自分のお父さんでもそこまで言っては気の毒と、
窘めにかかった総長さんではあったれど…………、



 “いくら俺でも、
  そこまで悪質なことはしませんよったら。”

他の子の都合まで いいようにしちゃうなんてサイテーじゃないのよと。
微妙に目元を眇めはしたが、
すぐにもそんな気配は引っ込める。
カードのように薄くて小さい、
携帯やスマホじゃあない音楽プレイヤーを
イアホンタイプのヘッドフォンで聴く振りして、
一体……何を聴いてますかのお父様がいる場所は、

 「ヨウイチローさん、
  チョコパフェとミックスクレープ上がりましたよ。」
 「おお、了解。」

カウンターから七郎さんに呼ばれ、
耳からイアホンを外しつつ、
あいよとスタスタ軽快に足を運ぶ。
夏休みもそろそろ終しまいという時期だけに、
お若い女性客も戻って来つつある、
バス通りの茶房“もののふ”の昼下がり。

 マロンものもそろそろじゃないの?
 いやいやまだ早いでしょう、
 その前にイチジクとかナシとか…と、

何でもないよに今時の話をし、
黒地のシンプルなエプロンの裾ひらめかせ、
トレイへ乗せられた愛らしいスィーツを、
オーダーのあったテーブルまでと。
長い御々脚、スタイリッシュに交差させ、
運んでゆく姿もなかなかに颯爽としておいでながら、

 “いつまでも坊やから目が離せんほど過保護ではなぁ。”

カウンターの逆の端でグラスを磨いておいでの、
壮年のマスターさんから、
こそりと、されど的確に“ダメ出し”されてりゃあ世話はない。
長かった夏もそろそろ終わり…なんでしょうかねぇ?





     〜Fine〜  12.08.28.


  *葉柱さんチへお邪魔していた妖一坊やは、
   自由研究の宿題にと、
   こちら様のお庭の一角、
   サンルームの朝顔の鉢へセットしておいた
   定点観測カメラを回収に来ていたらしいです。
   蔓を這わせる支柱に細工をし、
   星型に緑が茂る様子が可愛かったそうですが、

   「このくらいなら家でも出来たろに。」

   マメな子だもの、
   水やりや何やというお世話だって…と
   言い掛かるお兄さんへ、

   「だから。
    ウチでこんなもん放置しといたら、
    あの親父が何するか。」

   「おいおい。」

   妖一くん言わく、邪魔をするならまだ可愛い。

   「成長剤とか勝手に放り込みかねないし、
    定点観測カメラに気がついてたなら、
    真横に別の鉢も並べて、
    そっちを笑える仕掛けつきにして、
    勝手におもしろ動画にしちゃったり。」

   「…う、う〜ん。」

   それはそれで面白いじゃねぇかと、
   思っても言えなかった
   葉柱のお兄さんだったそうです。

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